彼の醸造所を初めて訪ね、彼のワインを口にした時、
様々な想いや感情が全身を駆け巡りました。
そのワインが持つ純粋な表現力、そしてブルゴーニュという
土地からしか生まれないであろう複雑な個性、
しかし自由で奔放な明るいキャラクター。
多くのブルゴーニュワインからは感じられなくなってしまっていた魅力が、
目の前のワインには詰まっていました。
まさにブルゴーニュの本当の魅力を再発見した瞬間だったと言えます。
そして疑問が湧いてきます。
リスクを取ることが難しいこの地域で、どうしてここまで
素直で自由なワインが造れるのだろうと。
畑では化学的な物を使いたくないという彼は、(ボルドー液や硫黄を除く)
化学合成農薬や化学肥料を用いません。
そして、醸造においても過度の人為的な介入は必要ないという信念の下で、
自然酵母による醗酵を行い、瓶詰め時の
亜硫酸の添加も2011年から行っていません。
この自然なワイン造りのアプローチは誰から学んだのだろう、
あるいは誰の影響を受けたのだろうと思い、
彼になぜ自然なワイン造りに目覚めたのかと尋ねてみました。
すると…「どこかで突然目覚めたわけというわけではなく、
10年ワイン造りを経験するなかで自然とその気付きを得ました。
もしかして何も入れなくてもいいのではないか、」
介入は必要ないのではないかと。」
ブルゴーニュの自然派ワインの造り手であれば、ドミニク・ドゥランや
プリューレ・ロックのアンリ・フレデリック・ロック、
マルセル・ラピエールなどからの影響を語る造り手が多い中、
とても意外な答えでした。そして、自らその気付きに至った背景には、
おそらく彼のそれまでの人生が大きく影響しているように思います。
昔から学ぶ事が大好きだったというダヴィッド ルフォーは、
大学では薬学、論理学、そして哲学などを学び、
知的好奇心を満たしていました。そしてその際、」
学費の足しにと選んだアルバイトが、
メルキュレ村でのワイン造りのサポートでした。
そこでの経験が彼の想いをワイン造りの道へと掻き立てます。
そして、ワインの醸造学や地質学を学ぶために
哲学を探求する道を離れ、学位を取得します。
卒業後は実際的な経験を積むために10年ほどメルキュレの生産者の下で働き、
2010年に自らのドメーヌを設立しました。
もともと哲学を志していた彼にとって、自然を観察し、
その背景にある真理を求め、深く学び、
深く考えるという行為はごく自然なことだったのだと思います。
物事の表層にとらわれるのではなく、奥に秘められた真実を求めるという姿勢が、
既成概念やしがらみに囚われることのない自由なワイン造りを実現させました。
ワイン造りに対して全く無垢な状態であった彼だったからでこそ取れるリスク。
そしてその挑戦と冒険があるからこそ表現できる
ブルゴーニュワインの純粋な魅力。
ブルゴーニュの魅力を再発見するのに、
彼のワインほど相応しいものはありません。
最後に余談ですが、彼の溢れんばかりの才能はワイン造りにとどまりません。
ダヴィッドは、使用しなくなったワインの木樽から職人的かつ
芸術的なデザインの棚やテーブルなどの家具を作っています。
彼の作品はどれも精巧かつ美しく、その美意識や感性が
ワイン造りにも発揮されているのだと納得させられます。
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