★アスティの北東に位置する
カスタニョーレ・モンフェッラートの町。
この土地に残る地品種である黒ブドウ「Rucheルケ」、
DOCGを取ったことで一時期話題を集めましたが、
生産地域 は小さく、
ルケを栽培・醸造している造り手は極僅か、
希少なエリアでもあります。
当主であるジャンカルロ・ボルトリンは
トリノ近郊で生まれ育ちました。
都会での暮らしよりも、自然の残る環境、
農業を営み暮らしてゆくことを夢見た彼は、
2007年のヴィアリージの土地、
放棄されていた小さな家と3haの
ブドウ畑を手に入れました。
2009年にルケ、バルベーラ、グリニョリーノを植樹、
2013年より徐々にワイン造りを始めました。
農業やワイン造り は素人だったジャンカルロ、
「自分たちが暮らし、作り、食べる。
土地に根付いた暮らしをしたい」、という強い想いがあり、
畑では一切の薬品や化学肥料を使用せず。
ブドウ畑で唯一、銅と硫黄物を
最低限使用する農業を続けてきました。
醸造については当初、全くの素人だったこともあり、
近所の生産者にエノロゴとして
手伝ってもらっていたというジャンカルロ。
しかし、酵母添加や温度コントロール、
現代の醸造技術で造られた自分のワインに
「(自分で育てた)ブドウの味がしなかった」と。
エノロゴの反対を押し切り、
2015年より独学をベースに
一切のコントロールをしない醸造方法に
切り替え始めました。
約3haのうち、2haを占めるルケ。
土壌はカスタニョーレ周辺に多く見られる
石灰質、粘土質、砂質が混ざり合う。
場所により、マーブル上に土の色が分かれた
緩やかな丘陵地。
標高は250m、近年の温暖化、猛暑の影響を受けにくい、
北東向きの斜面を好んで植えられたブドウ樹。
畑ではクローバーやマメ科の植物の種をまき、
緑肥としている以外加えるものはなく、
銅と硫黄についても極僅か、
最低限しか使用しないこだわり。
そして何より最も特出すべきは、
ブドウの収穫量の少なさ、
そして完熟まで待ち続ける強い忍耐と意志。
DOCGで認められている9t/haに対し、
彼の収穫量は3.5〜4t/haという少なさ。
そして果皮、種子まで完全に成熟するまで
収穫を遅らせる徹底的な覚悟。
結果的に、超熟成したルケは、糖度が高すぎて
潜在アルコール度数が 15%を軽く超えるほど。
この超凝縮したルケを果皮と共に約2週間、
緩やかに醗酵が進む。
これほどの糖度、アルコール であっても、
今まで醗酵が途中で止まった経験は
ほとんどないと話すジャンカルロ。
「収穫したブドウからは、完熟したブドウの香りの他に、
強い酵母の香りがあふれてる」、という話に、
ブ ドウの質の高さが想像できてしまいます。
非常に香りに特徴を持つルケ、
その特徴を美しく表現する為に醗酵が終わった後、
オリの状態を敏感に見極め、こまめにオリ引きを行う彼。
その回数の多さに、むしろ酸化のリスクを心配してしまいますが、
「嫌気的な環境よりも活発な酵母、健全なアルコール、
整った環境があれば、
酸化を恐れる理由が俺にはわからない」 と、
一蹴されてしまいました。
カッシネッタのワインを支えているのは、
経験値でも醸造テクニックでもない、
溢れんばかりの素材(ブドウ)への信頼感。
久しぶりに出会う、裏表のない情熱と
強い意志を持ったジャンカルロ。
ワインとしてはまだ粗削りな面も多いですが、
それを補って余りある素晴らしい味わいと魅力的なルケです。